講演

私の仕事のスタンスを、「ふつう」へ

いつもお世話になっているみなさまへ、今回は私が活動してきたことを書いてみようと思います。

20代前半から大学や専門学校、小中高等学校、地域の方々へ講演活動をさせていただきました。あれから15年。最初は、用意した原稿を読み上げるだけで精一杯でした。汗をかき、声もうわずっていたくらい緊張していたのを思い出すと、なんと恥ずかしい。そのときの私は、ここまで続けられるとは思っていなくて、今のように「ぜひ登り口さんにやってほしい」とご依頼いただけることも夢のような話でした。

障害者が行う講演は、内容は違っても、テーマは同じ。それは「どんなに障害があっても、ふつうに暮らすことができる」こと。これまで障害のある先輩方がたくさんいて、私も、舞台に立つ人生の先輩の話を客席から眺めていたのを思い出します。講演を聞くたびに、力強い言葉、これまでの強い生き様が、その方の全身から伝わってきて、「私もこんな風になりたいな」と思っていました。

今では、兵庫県に移ってからも、北海道の講演依頼の話をいただきます。(オンラインを使うことが当たり前になって助かる!)。正直に言えば、少しでも報酬をいただいて生活の潤いになるので、感謝の気持ちでいっぱい。でも、少しだけ寂しくもあります。本当は、北海道には、たくさんの活動的な障害のある人がいるので、そういった身近な人々が表に出れば良いなと思います。

何も大きなことをしていなくても、毎日、ヘルパーさんと生活をしていたり、仕事に行ったり、毎日何を食べようかと考えたりしている人も、「もっとこうしたら生きやすくなる」と話していったら良いなと思うのです。

「私なんて人前で話すことなんてできないよ。」という人がたくさんいるかもしれない。でも、言葉を上手にしゃべったり、人を感動させたりするような「講演のレベル」が大切なのではないと思っています。一番は、どれだけ自分のこと、自分の感情、そして人生を大切にしているかということ。いろいろな困難に立ち向かうだけではなく、いかに逃げたか(これが大事だと思っている)、どんな人が周りにいて、一緒にやってきたか、何を一人でやってきたかを知っていること。そのことを知っている人は、絶対に、自分しかいない。私は、「周りの先輩には、かなわない」といつも思っていました。でも、何度も話していくうちに、「自分が感じてきた社会の問題は、自分の言葉じゃないと伝えられない」のだと思うようになったのです。

この14年間、私の講演の内容は徐々に変わっていきました。

最初は、子どもの頃に感じた「障害があるだけで、なんでみんなと同じように学校に行けないの?」という疑問や、介助が必要であっても大学に行って仕事をしたり遊んだりしてきた経験を話してきました。「できないのではなく、できるようにしていくために、社会や周りの環境を変えていく」「環境を変えていくことで、他の人も生きやすくなる」というメッセージを伝えようと思いながらやっていました。

私の話を聞いて、いろいろな反応がありました。一番嬉しいのは、障害のある人から「自分もできることがあるんだ!とわかりました。」という反応をもらったことです。介助が必要でも大学に行ったり、働きに出かけたり、スキーをしたり、旅行をしたりできるんだ!ということを知り、できないと思っていたことに希望の光が見えたのでしょうか。とてもありがたいです。

少し残念だなと思うのが、障害のない、いわゆる健常者と言われている人からの毎回聞く感想です。それは、「障害があって大変なのに、すごいですね。アクティブですね。」や「そんなに大変なのに、そこまでしてひとり暮らししたいんですか。」といった感想でした。ひとり暮らしや旅行、大学生活や仕事は、特別なことではまったくありません。健常者だったら、「アクティブだね。」と言われることはほとんどないのに、障害があることがわかると「アクティブだね。」と言われることは、不思議に思われないのです。

もっと残念なことがあります。障害のある本人じゃない人の反応です。よくこんなことを言われることがあります。「うちの子は、登り口さんより障害が重いから、登り口さんのようにはできない。」や、「うちで支援している人は、よくわかってないし、やりたいことも出てこないから、私たちが促さないとダメなんですよ。」という感想を聞いたことがあります。本人のことを全部わかっているわけでもないのに、他人が勝手に判断してしまうことはよくあります。子どもを育てたり、障害者を支援したりするときに、思いがありすぎて、言ってしまうこともあるかなという印象があります。

でも、自分の生活や人生って、いろいろな人からの影響を受けて、自分の予想もつかないような方向に進むことがあると思っています。障害者の支援の仕事をしている人も、自分のプライベートとなったら、朝のモーニングコールを家族や友人に頼んだり、食事や掃除を友人に促されて一緒にやったり、夜眠れないときに、友人や恋人が付き合ってくれたりして、心が穏やかになり、日常生活が変わることもあると思います。新しいことに挑戦してみることも、ふとしたきっかけで始まることだってあるのです。

本当に、私が話していることは、当たり前のことであってほしいと思っています。もし、「アクティブだね。」と思ってくださったら、ちょっといじわるかもしれませんが、「それで?」と突っ込んでいきたい。「話を聞いて、うちの支援している人に、こうしてみたら、その人の背中を押すかな?」「いろいろな方法があると思うから、うちの子にもできそう。」など、次への行動に結びつく反応があれば、私も講演していてよかったなと思います。

そのように思っていただくために、「自分ごとで考える」講演や授業を考えています。ある専門学校でのグループワークの作成物です。

服を買いに行く、飲食店でご飯を食べるといった「普通のこと」が、まったく違ってしまうということ、どんなことが必要なのかを考えることが重要であることに気づいてもらいたいと思いました。

今は、自分のことを話すだけでなく、このような時間をいろいろな人と楽しんでいきたいと思っています。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 

私の講演では、ヘルパーさんを使いながらの生活、社会で感じる障害の問題、仕事についてなどをお話しできます。福祉系の専門学校さんからも教科を教える授業を受け持たせてもらっています。

いろいろな相談もお気軽にされてください。

兵庫県芦屋市在住のフォトグラファーさんに撮影していただきました。

https://bon-sourire-photo.amebaownd.com/

別件でインタビュー取材をいただいたサイトで使われる予定です。

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