生きる

生命に関わるにも関わらず、特別扱いなのか

8月1日、ついに参議院本会議がスタートした。改憲を支持する議員が過半数を上回ったという結果になったのも大きなことであるが、同じように大きく注目されているのは、れいわ新選組の舩後靖彦氏と木村英子氏の初登院に向けた、国会議事堂や本会議場のバリアフリー化や介助者の費用の保障についてである。二人が当選したことで、体が健康な議員だけアクセスできるこれまでの国会を変革しているのである。「建物にアクセスできる=議員として政策に参加できる」という意味があることは言うまでもない。これで、たとえ、今は健康である議員が体が不自由になっても、議員として職務を全うできるのであるから、喜ぶべきことである。そして、障害のある人も、国民の代表として意見を直接言えるのだ、と希望が湧いてくる。

もう一つ不可欠なことがある。二人が職務を遂行していくには、活動場所までの移動、トイレ、水分補給、舩後氏の場合は自身の意志を伝えるための通訳(コミュニケーションボードや顔のサインの読み取り)、人工呼吸器への対応、たん吸引などが必要になってくるだろう。しかし、通勤や職場内での介助は、ヘルパーのサービスを受けられる障害者総合支援法では「対象外」になっているため、受けられない。

私自身も就職活動をしていたが、企業の求人票には「自力通勤できる人」「車椅子移動不可」「身障者トイレなし」などが備考に書かれ、「仕事の内容はできることなのに、応募することすらできない」状況だった。さらに、履歴書による選考で通過し、面接で仕事内容のことは問題なく話し合えていたにも関わらず、「トイレ介助が必要」とわかると、対応できないと言われて終わってしまうことがほとんどだった。アメリカでは、ADA法(障害を持つアメリカ人法)により、採用面接の段階で障害について質問したり、その後に障害を理由に不採用にしてはならないと固く禁止している。あくまでも、就職したい意志や能力で判断されるため、就職のスタートラインに立つことができる。そして、採用者の必要とするサポートを考えていくのである。

一時期、介助が必要と言わなければ採用されるのだから、「紙パンツでもして、短時間勤務でも良いから、就職したい」と思ったことがある。しかし、何日もそんなことをしたら、低血圧や熱中症、ずっと車椅子に座っていると床ずれを起こして坐骨が腐ってしまう。倒れてはどうにもならないのはわかっていたが、就職活動ですらスタートラインに立てない悔しさも同じレベルくらいに辛かったのだ。

二人の議員は、今、仕事中の介助費用を公費で保障するよう訴えている。それに対し、日本維新の会の松井一郎議員は、「国会議員だけを特別扱いするのか。一般人であろうと公平平等に支援を受けられる制度に変えるべきだ。」と批判し、自民党の小野田紀美議員は「議員特権にならないか。文通費や政党交付金があるではないか。」とコメントしたようだ。一見すると、他の障害者の就労で介助が認められていないから「特別扱い」と指摘しているようだ。「平等」という正義を示しているようだが、「障害者」というカテゴリーの中で比較しているに過ぎない。生命に関わることにも関わらず、そのサポートに必要な介助費を保障することは「特別扱い」なのだろうか。

国会から変わることで、他の制度の見直しに追い風を吹かせることを、私も含めて多くの障害者は期待している。「重度の障害のある人も、介助を受けて仕事ができるように」立ち上がってくれたのだ。「こういうことになることは想定内なはず」と要望に対して批判的な考えもあるが、突破口を作らなければ何も変わらないのである。もし、「税金をなぜ介助に使うのか」ということに疑問を持ったならば、税金が何に使われているのか?あらゆる使い道を、私たちは知り、疑っていく必要がある。

舩後氏と木村氏の初登院から、すでに大きな動きを起こしている。大きな仕事の選挙を終えてからも日々の取材で体力を奪われているだろう。まずは、心身ともに倒れないように祈るばかりで、あとは自分にできることを探すのみである。

参考ウェブサイト

「存在するだけで」国会を、この国を変えていく れいわ新選組の新人議員。

山本れいわ代表、自己負担論に反発 重度障害議員の介護費

文通費を介護費用に 小野田議員指摘に「国会法違反では」の声

れいわ舩後・木村氏は「フロンティア」 自民・武井氏が「重度訪問介護」費用負担を評価する理由

「れいわ」政党交付金6700万円 試算、自民首位176億円

「議員優遇おかしい」 れいわ2氏の介護費参院負担批判 松井維新代表

POSTED COMMENT

  1. えみ より:

    はじめまして。
    以前からブログを楽しく拝見させていただいています。
    が、今回に限っては意見が違いましたのでコメントさせていただく次第です。
    わたしは就労の際に公的サービスが利用できるようになるのは基本的には賛成です。多くの国会議員もそれについては賛成されているのではないかと思います。
    問題は別です。国会議員という高額な報酬があるにも関わらず、公費で介護サービスを受けられるようにと訴えられているところです。
    みちこさんが、これまでどのようなお仕事をしてどれだけの給与をいただいていたのかまでは存じ上げませんが、国会議員ほどの給与ではなかったでしょう。
    それ(表現は悪いですが「その程度」)であれば、公的サービスで介助が入っても良いと思います。(※まぁ、どの分野でも人材不足と言われている近年なので、人材確保と質の安定性のために先に行うべきは処遇改善だと私は考えていますが。)
    国会議員は多額の報酬があるのです。まずは議員報酬から捻出するのが妥当だとは思いませんか?正直、他議員と比較して活動量は身体的に減ると思われるので、その分支出は抑えられるので、その分で専属の介護者を年収500万円×4人=年間2000万円で雇うくらいはできると思うのです。
    れいわ新撰組のお二人は「議員の報酬であれば専属介助者も何とか雇える。しかし、年収○○○万円以下であれば介助者を雇うのは難しいであろう。そのため、年収○○○万円以上の者を除外した障害者に対して、就労や教育場面で介助者を公的サービスで利用できるよう求める。」と訴えることが、誰もが納得できる方法だと考えます。

    参考webサイトについては、れいわ新撰組の要望に反対しているサイトも是非ご覧ください。

    早く就労や教育場面でも介助者の利用ができると良いですね。迷惑をかけてる気がすると思いながら働くのはしんどいですから。

    • 初めまして。コメントをいただきありがとうございます。きっとこういった議論がもっと展開されていくのだと思います。この記事を書いて思ったことですが、(私も含めて)誰かが発した言葉に対して、そこだけに感情的になって反応しがちです。今回は「特別扱いなのか」という疑問がテーマでした。なので、私も議員の言葉に反応して書いた、ということになりますね。お伝えしたかったのは、生きるために必要な支援は、国全体が人の権利として保障するという基本的な考えから初めていってほしいということです。その上で、一般の人も含めて行き渡るにはどうしたらいいか、もしその基本的な考えに賛成なら、党派を超えて議論してほしいと思っています。私は全てを知っているわけではありませんが、就労するために全国の障害者が草の根的に制度と戦っています。しかし、個人の活動のみでは、時間も労力もかかり、社会の動きが鈍いことがほとんどです(全く変わらないということではありません)。そこで、課題を示してくださったのが二人の議員だと思います。費用を自身で負担するのか、どこが負担するのか、自己負担なら年収額の基準はどうするのか、などを議論するには、賛成できる基本的な考え(就労にも介助は必要)を固めていく必要があり、今は、固める段階にあるのだと思います。国会議員の報酬は、それをきっちり行うための対価なので、身体的な動きだけでなく、自身の生活と両立しながら、多くの時間を割いて政策に携わるための妥当な対価であるはず(年配の方、持病を持っている方、子育てをしている方など)です。なので、二人の議員が支出を抑えられるかどうかは実際はわからないと思います。コメントをくださってありがとうございます。恥ずかしながら、今回を機に、私は政治との関わりを真剣に考えるようになりました。

  2. 四万十の晃ちゃん より:

    こんばんは、お久しぶりです。就労等の重度訪問介護の問題がメディアでも取り上げられていますが、登り口さんが行かれたアメリカの重度障がい者の就労や就学に対する支援はどのようなものがありましたか。

    • こんにちは。回答が遅くなってしまいました。コメントいただきありがとうございます。アメリカの州によって制度のあり方が違うので、断定はできませんが、ご存知のようにADA法により障害者が業務の遂行のために必要な支援は配慮しなければならないとされています。就労と就学は対象年齢や制度が異なるため、一緒には説明できませんが、学校では介助員を置くようになっており、障害のある人も普通学校に行くことは当たり前だとアメリカに住む友人は話していました。しかし、学校を卒業した後は、州によって予算や制度が違うために、ヘルパーを利用できず親元で暮らさざるを得ないという状況もあるようです。そのため、就労までには至っていない人もいます。ADA法があっても、実際はまだまだ進んでいないようです。

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