本・映画・作品の感動

片手の郵便配達人

 

戦争の悲惨さが心に刺さる一冊。日常の中の、その街に住んでいる人々が、戦争によって心も体も手の届かないところへ持っていかれる。一度戦場に行かされた郵便配達人が片手を失って戻ってきた。前のように郵便配達で街を順番に回る。毎日毎日、それぞれの家々では、戦争に行ってしまった家族の訃報通知が来るのを恐れながらも、食事を作り、食べて寝て、雪が降って、春が来るを繰り返していく。読者の私たちは、郵便配達人の巡回とともに、街の人々の様子を見に行っているようだ。

読んでいく中で、ときに退屈になってしまいそうになるが、人々が郵便配達人にこぼす言葉の端々(はしばし)に、街の外で起こっている戦争の影が近づいているのを感じ取れる。ありふれたの日常に、潜んでいく恐怖を見失ってはならない。最後は、かなり衝撃的だった。

ドイツ人である筆者は、あとがきの中で、戦時下で生きていた私たち全員に責任があると言っていた。過去のことに目を背けてはならない。日本人にも語りかけているこの本は、他にはない、心にいつまでも刻み込まれるほどの日常的で、衝撃的な一冊だ。

 

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