くらし

食べ終わった食器を残したままのひととき

夕方に近づいてくると、お腹が空いているのかいないのかわからないくらい、頭がぼーっとしてくる。おやつを食べたら、よいしょと立ち上がり、晩ごはんのことも頭の隅で考え始めつつ、1日の残りを片付けられそうな気になる。まだ晩ごはんが終わるまでは、今日は終わらないぞと気持ちを奮い立たせた。

ヘルパーさんが来たとき、ちょうど私の仕事も片付いたので、晩ごはんの時間にすることにした。冷蔵庫を開けた。今日は、昨日作っておいたさつま汁と、ラディッシュのサラダ、今日の昼に残った焼きそばにしよう。ヘルパーさんに、タッパーやお皿に入った残りものを出してもらうよう「あれと、これと」と伝えていった。その矢先に、キムチも目に入り、キムチとごはんを追加した。すばやくお皿に盛り付けるヘルパーさんの手際の良さに見惚れつつ、品数が多くて助かったと安堵した。キムチを食べていたら、新潟の友人にもらった日本酒が残っていたのを思い出し、「日本酒飲むわ〜」と声を漏らした。ヘルパーさんは「いい色やね〜」と言いながら、私のコップに注いだ。

食べることって、
ただ栄養を摂るだけではないと思う。

食べることって、
「いただきます」と「ごちそうさま」の間のことだけではないと思う。

食べ終わって、空になって汚れたままの食器を目の前に残したまま、お酒を飲んでいたら、施設で生活していたときのことを思い出した。1日の流れが時間できっちり決まっていて、お腹が空いたと感じる暇もなかったし、食べ終わったらすぐ片付けられていたなぁと。

もちろん、今の家での普通の生活だって無制限に自由があるわけではない。夜はお風呂だって入るし、ゆっくりもしたいから、やることは盛りだくさんだ。きっと時間の問題じゃないんだろう。

きっと、施設生活では職員が時間を管理するから、振り回されていただけなんだ。ちなみに、今では家にヘルパーさんが来てくれるけど、その福祉サービスの仕組みの中では「食事は食べるだけ」としてしか考えられていない。食事介助は食べることだけが目的となっている。でも、実際は、ヘルパーさんはただ飲みものをコップに注ぐのではなく、「いい色の日本酒」と言いながら注いでくれたから、雰囲気も一緒に食事を楽しめるのだ。

食べることって、今日は何を食べようかと思いを巡らすところから始まると思う。

そして、食べ終わったあとも、すぐに食事は終わらない。
食べかすのついた食器たちを眺めて、今日も1日が終わることに思いを巡らす。
気が済むまで想いを巡らせたら、食事は終わりを迎える。

日本酒をちびちびと飲みながら、残ったままの食器に心の中で語りかけ、1日を振り返った。ヘルパーさんに「ごちそうさま」の合図で食器を片付けてもらう前に、ゆったりとした時間を感じた。

幸せなひとときだ。

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