ローマに着いた。
暗くて狭かった飛行機の中から解放され、
出た瞬間、感じたことのない空気が頬(ほほ)をなでる。
体の疲れは、遠く離れたところへこれた証拠なのだ
と言い聞かせ、ワクワクしている気持ちだけで前へ前へ進んだ。
目に飛び込んできたのは、青や黄色やオレンジなどの
色鮮やかな景色。
景色といっても、まだ空港は出ていない。
行き先を案内する看板や、お店の表示、公衆電話など、
どれも自分の国とは違う色のトーンだった。
電車のホームまでたどり着くと、
ようやく周りの人々のことに意識を向けられるようになった。
声が低くて、飛び跳ねるような抑揚があるイタリア語は、
聞いていて気持ちがいい。
飛行機から降りて、友人と待ち合わせしている場所まで
イタリア人の空港職員さんに車いすを押してもらった。
簡単な挨拶など、覚えたイタリア語で話しかけると、
どこで習った?学校?と質問された。
もちろん、その質問がわかるほどイタリア語は知らない。
でも、なんとなくわかった。
濃い眉毛や髭を生やした職員さんは、年齢で言うと中年。
目を合わせるたびにニコッとしてくるし、
たまに鼻歌を歌っていて、それがうまい。
心地よくなってきたころ、
いつの間にか待ち合わせ場所について
友人ととびっきりのハグをした。
にっこりと見守る職員さん。
疲れと心地よさ。
久しぶりの友人との再会は、
ほろ苦いエスプレッソから始まった。