タイトルに惹かれて、ある本に出会った。それは若菜晃子さんが書いた「途上の旅」だ。カナダやモロッコ、ネパールやチリなどへ旅に出たときの日常の風景が鮮やかに描かれている。一つひとつのストーリーがちょうど良い長さで読みやすい。なぜか、そのそんなに長くない文章の中に吸い込まれるように、その国その国の日常に飛び込んだような気持ちになる。おかしい、おかしいぞ、行ったことがないのに行った気になっていく。それは、旅の説明はなにもないから、いきなり、筆者は私をどこかの国のパン屋に連れて行ってくれる。そして気がついたら一緒に歩いている。歩いているうちに、筆者は、そこがチリのとある街であることを教えてくれるのだ。
私は、いつも夜寝る前に本を読んでいるのだが、なぜか、この「途上の旅」だけ集中できない。どうしてだろう……。しばらくわからないまま放置していると、急にわかった。これは、朝に読むものだと。案の定、朝、起きて朝食を食べたあとに読み始めたら、いい感じで、若菜さんの旅に吸い込まれたのだった。たったの5分、10分。飛行機で十何時間もかかる国へひとっ飛びし、道中の疲れを感じることなく、朝の散歩をし始め、野良犬が日常的に歩いている街にとけこんでしまった。