もしかすると帰られないかも…
11月12日、13日。Eikoさんはタイに滞在し、Michikoはイタリアに滞在していた。二人そろって日本を出発したのが11月2日。早くも10日以上が経った。Eikoさんがタイに着いて落ち着いた頃、私たちはスカイプで連絡を取り合った。
「Michikoちゃん、体の具合はどう?」「まだあごは痛いけれど、大丈夫だよ。」EikoさんもOさんも、イタリアにいるMichikoをとても心配していた。と言いつつも、二人は旅を楽しむことを忘れない。Eikoさんは、タイのマッサージをゆっくり受けてくつろぎ、Michikoは高級なチョコレートのジェラートを味わったり、「マルタ騎士団」という小さい鍵穴からバチカン市国のサンピエトロ大聖堂が見られる観光地に行ったりし、残りの旅を楽しんでいた。ちゃっかり、Eikoさんにタイのお土産を頼んでおいて、抜かりない(笑)。

そんな中、この時はまだ次の飛行機が決まっていなく、いつ帰ることができるかわからなかった。まずはホテルの宿泊を延期し、YUKAさんも泊まれるように手配した。今までずっと泊まっていた部屋は、寝室だけでなくトイレもお風呂場も広かったため、同じ部屋に泊まりたいと交渉した。この延期滞在のホテル代を海外旅行保険の会社に保障してもらいたいことを伝えなければならない。そして、Michikoが生活するにはYUKAさんの宿泊がなければならないため、その宿泊料も問い合わせなければ!
フランスにいる保険会社の担当者にどれだけわかってもらえるかわからなかったが、トイレや入浴、着替え、夜中にトイレや水分補給が必要になることなどを話し、電話口でわかりやすく説明をした。障害者かどうかなんて電話ではわからないだろうから、信じてもらえるか心配だった。でも、すぐにMichikoの話をしっかり聞いて、対応できるかどうか検討していただけることになった(車いすのお客様かどうかは何かの方法で確かめたとは思う)。
結果は、延期した分の宿泊費はMichikoとYUKAさんの分を保障してくれることになった。ただ、問題が残っていた。「もしかすると帰れないかもしれない」ということだ。Eikoさんと日本から飛行機に乗る時に心配していたのが「搭乗拒否」だ。
今回は、Michiko一人で乗ることになったため、空港で搭乗を拒否されるかもしれない。それを保険会社の担当者が懸念をしていた。「チケットを取ったとしても、もしかすると搭乗できない可能性があります。付き添いを付けますか?保険では費用の保障はできませんが、アシスタントの手配はできます。どうしましょうか?」
そんな…。アシスタントは、既定の日以上の入院をしていた場合に費用が保障されるようだが、入院はしていないため、全額の負担になってしまう。イタリアのホテルから日本の自宅までしっかりついてくれるようだ。しかも、日本人じゃない外国のアシスタント!!それももしかすると面白いのかも…、とこんな状況でも考えてしまったが、現実的に全額の負担は難しい。そんな風に悩んで返答に困っていると、「もう少し搭乗できる方法を検討してみます。」と担当者も粘ってくれた。
しばらく経って電話がかかってきた時、やはり拒否の可能性は免れないということだった。Michikoはためらわずに担当者にお願いをした。「拒否されるかどうかは、まずは行ってみないとわかりません。チケットをまず取っていただいて、空港に行ってしまいたいと思います。行きもアテンダントさんに頼んで来ることができました。一人でも大丈夫です。チケットを取ってください。」一か八かの選択。ダメならまた考えればいい。担当者に決断してもらうために強く言い切るようにした。
「わかりました。やってみましょう。」
その夜再び電話が来て、出発日時が決まった。11月14日(木)、アリタリア航空784便15時出発。成田空港着は11月15日11時15分、そして新千歳空港着16時25分。イタリアから日本まで12時間で、プラス札幌までとなると合計18時間程度かかる。その間、一人で旅をすることになった。最初に旅をしようと決めた時、ひとり旅を覚悟していたが、本当にひとり旅になるとは思ってもみなかった。

Michiko、12時間以上のひとり旅が始まる

11月14日、ローマ滞在10日目。ホテルを出発する時間が来た。ホテルから空港までは福祉タクシーを頼んだ。もちろん、バールのお兄さんに紹介してもらったジョゼッペさんの車だ。外で異様な爆発音が聞こえる。誰かが叫びながら爆発をさせているようだ。就職難に対する若者の社会運動らしい。ホテルの横の道路だったため恐怖を感じた。
出発する前に保険会社の担当者から電話があり、「搭乗手続きの頃に一度お電話した方がよろしいですか?」と心配してくださる。こっちから電話をかけると電話代が多くかかってしまうからだ。きっと、手続きの時は電話に出る暇がないだろうと思い、「大丈夫です。きっと乗れると思いますので。」と返答する。「どうか気を付けてお帰りください。」と、戦場に出る人を見送るような真剣な声で言ってくださった。自分で決めた旅だもの、何があっても帰ってみせるのだ。
ジョゼッペさんは、Michikoの体調を気遣ってくださった。大丈夫かい?車いすを後ろ座席に載せながら、声をかけてくれた。ベーネ、グラッツェ(元気よ、ありがとう)。車で15分~20分くらいだろうか。イタリアの風景がしばらく見られなくなると思うと、車窓から景色をずっと眺めて目に焼き付けるようにした。YUKAさんが助手席に乗り、ジョゼッペさんと会話をしていた。
あっという間に空港前に到着。タクシーから降りて、料金について話をしなければならなかった。保険会社が帰りの分の交通費を全額払うことになっている。ジョゼッペさんから話を聞くと、保険会社からはまだ連絡は来ていないらしい。万が一、払われなかったら困るから、Michikoがこの場で払っておこうと思っていた。
すると、「いいよ、心配するな。払われなくてもいいよ。出会えたことに感謝だ。またイタリアに帰っておいで。」と、Michikoの肩に手をかけて励ましてくださった。まだ会ったばかりの日本人にお客をこんなに信用してくれるなんて!とっても感動した。お互いにハグをして、ジョゼッペさんとお別れをした。
Chikakoさんも一緒に来てくださった。Chikakoさんには最後の最後までお世話になりっぱなしだった。空港に着いてからお手製のお弁当をいただく。お寿司、太巻き、おいなりさん…日本のお米を食べるとやっぱり落ち着く。
食べている間に、Chikakoさんにあるお願いをした。それは、機内で必要なイタリア語をノートに書き留めておくことだ。気分が悪い時、服を脱がせてほしい時、食事のふたを開けてほしい時、トイレを頼みたい時、バックやお水、ブランケットなどを取ってほしい時など、色々な場合を想定して、イタリア語を覚えておこうと思った。
座っていてお尻が痛いです。 Fa male La Sedere.
よく座れるように後ろに私を引いてください。Mi tirare in dietro per sedere bene.
私は具合が悪いです。 Sto male.
バッグを/水を取ってください。 Mi prende La Borsa/La’qua.
寒いです。Fa Freddo. 暑いです。Fa caldo.
12時間も機内の椅子に座りっぱなしは正直言ってキツイ。バングラデシュに行った帰りは隣に友人がいたものの、消灯時間で機内が暗かったのと、飛行機がかなり揺れていたのと、食あたりを起こして吐き気がしていたのと重なり、8時間のフライト時間だったが、狭い空間にいる怖さが倍増して今すぐにでも降りたいと思った。
今度は一人で12時間いることになるが、普通の暮らしでもそんな状況になったことがない。人間は普通、一つの場所に負担がかからないよう姿勢を頻繁に変えていると言われている。寝ている時は寝返りを一晩に10~20回するし、いすに座っていても膝を左右にそれぞれ組み直したり、肘を置く位置を変えてみたり、靴を脱いでみたり、腕を組んで寝てみたり、短い時間の中でも何度も姿勢を変えている。機内であれば、時々座席から立ち上がり歩き回っている人もいる。Michikoはそこまで自由は利かない。服やブランケットを体温に応じて外したりかけたりするのも、座る姿勢を変えるのも、ずっと下になっている足の高さを調整するのも、一つひとつ頼む必要がある。
Eikoさんが隣にいた時はお手伝いをしてもらっていたものの、今は一人でやっていかなければならない。そんな状況になって、言葉を身につけておかないと伝えられないという危機感を持つようになった。
Chikakoさんにしっかりノートに書いてもらうと、あっという間に時間が過ぎた。2時間前には搭乗手続きをして、車いすを預けたりしなくてはならない。YUKAさんとChikakoさんと一緒にアリタリア航空の受付に向かった。空港の受付は、チケットの確認や荷物の預け入れなどをテキパキとやっているため、空気はピリピリしていることが多い。
イタリア人のスタッフは、さっそく電動車いすに乗っているMichikoを見て…というより、Michikoの方はちらっと見て、あとは車いすをずっと見下ろしながら、Chikakoさんに真剣な顔で何か話をしている。さすがに、イタリア語で説明はできないため、Chikakoさんに全面的に手伝っていただいた。
折り畳みができないこと、バッテリーやコントローラーはクッションに包んでほしいこと、行きも預けてもらってイタリアに来たため問題ないことなどを、Chikakoさんから伝えてもらうように頼んだ。
受付にいたのは女性のスタッフさん。Chikakoさんの方を見ながら、表情を変えずに何かを考えながら話を聞いている様子だった。「この車いすは載せたことがないわ。」と今度は、手を腰に当てながら車いすに近づいて見ている。何やら受付に戻り電話でやりとりをし始めて、Chikakoさんも少し不安げだった。もしかして搭乗できないのではないだろうか…。一抹の不安を抱えて、手続きを始めてから1時間近く経っただろうか。
しばらくして他のスタッフさんも来て、機内用の車いすに乗り換えることになった。お!乗れるのか!これからの進路に光が差してきた。チケットの手続きも終え、電動車いすも別なところへ運ばれようとしていた。
そして、Michikoもスタッフさんに後ろから車いすを押され、手荷物検査へと向かおうとしていた。いつのまにかあっという間の旅立ち。ゲートに向かう前に、YUKAさんとChikakoさんとハグ。一言、「ありがとうございました。」と言うのが精いっぱいで、あとは急いでゲートに行かなければならなかった。最初の荷物検査のゲートをくぐった後に、後ろを振り向かせてもらうと、YUKAさんとChikakoさんが遠くから手を振ってくれた。
Michikoも手を振り、元の方向に振り向いて進んでもらうと、もう受付は見えない。12時間以上のひとり旅が始まる。旅の終わり際なのに、新しい旅が始まった。
小ネタ☆イタリアのカラスは何色?
イタリアにもカラスがいた。外で見かけた時、体の形や鳴き声がまさしくカラス!と思った。
でも、色は、日本のカラスと違った。
グレーと黒のシックな色。

国が違うと、住んでいる生き物たちも、様子が違うんだ!
他の国へ行くと、こういう何気ない発見がおもしろい。

【2020年記】海外旅行保険は入るべし
旅行の準備の中で、「お金高いから、やめておこうかな」と思うのが、旅行保険をかけておくこと。何もなければ、保険なんていらないし、お金がもったいないから、保険をかけることを避けてしまう。
でも、旅行を計画したら、旅行保険はぜひ入っておくべきだ。何が起こるかわからない。確かに、滞在期間が長くなると、その分お金はかかるし、海外ならば、なおさら高い。
何万を最初に投資することになる。
イタリアで頭を打ち付け、病院にかかり、滞在を延長し、飛行機のチケットを取り直すとなると、今回は60万近くかかったと思う。
飛行機のチケット代は、片道だけ取るわけにはいかないようで、往復分がかかってしまう。使わない片道分も払うが、すぐに投げてしまうことになる。
海外旅行保険に入っていたことで、60万以上も払わずに、保険代の何万円だけで済んだのだ。
本当に、命拾いをしたな〜。
