イタリアのハンサムボーイに恋
夕ご飯も食べずにクリニックに寄ったため、お腹がすいてたまらない。どこに行こうかと考えていると、Chikakoさんの日本食レストランに行こうという話になり、Chikakoさんが電話をかけてくださった。夜はイタリア人のお客さんで満席であることが多いというが、たまたまその日は席を予約することができた。
お店の入り口は階段があり、Michikoは車いすごと担いでもらった。そこで働いているイタリアやバングラデシュ人のスタッフさんがかけつけてくれた。お寿司をはじめ、丼ものやおそばやうどん、ラーメン、てんぷらなど日本で食べられるものがメニューになっている。お寿司は普通のお寿司もあるが、デザイン残った巻物もあり、イタリア人も喜びそうだ。
辺りを見渡してみると、イタリアの男性6人ほどで、テーブルの真ん中にあるてんぷらの盛り合わせをみんなで食べている様子が、新鮮で面白かった。スーツを着ていたから接待か、仕事帰りなのだろうか。どちらにしても、お箸を持って日本食を食べている海外の人ばかりで、とても人気のあるお店だと思った。
MichikoとEikoさんはお寿司を食べて、日本のお米を久々に食べて一安心した。お味噌汁もセットになっていて、やっぱりホッと落ち着いた。

途中でおじいちゃんが上の階から降りてきて、おもむろに空いている席に座り休む。何かを食べるわけでもなくお茶を飲みながら休み、挨拶をして再び2階へと上がっていった。
その後は、スタッフさんが歩いて5分のホテルまで車いすを押して送ってくれた。Michikoの顔がなぜかにやけてしまう。20代前半のベッティ君。とってもハンサムで優しそうな人♪ホテルの部屋まで送ってくれて、最後はFacebookの友人になってもらった。これで会うのが最後なのだろうか?少し恋しくなったまま、ローマ2日目が終わった。
タクシーでおじさんとオペラデゥエット

ローマ3日目。快晴。今日は早起きをして、再びサンピエトロ大聖堂へと向かい、ローマ法王の謁見に参加することになった。Chikakoさんがチケットを入手したと言って、MichikoとEikoさん、YUKAさん、おじいちゃんの分も取って一緒に行くことになった。そのために、Chikakoさんが自身の着物を私たちに貸してくださった。日本人として出席するということで、はりきっているChikakoさん。昨日、私たちに似合うきれいな着物を探してくださったのだ。
朝から着物をまとい出発!!MichikoとYUKAさんはタクシーで、EikoさんはChikakoさん、おじいちゃんと一緒に、Chikakoさんの息子さんのジュリアーノさんの車で行くことになった。
タクシーのドライバーは笑顔が素敵なスマイルおじさま。車いすから座席に移る時にMichikoの体を持ち上げるのを手伝ってくれた。その時に「オープラッ」とかけ声のような言葉が出てきた。日本語で「よっこらしょ」という意味だ。なんて失礼な!と執筆している今になって思うが、その時はイタリア語でそういうふうに言うんだと新しい発見で面白かった。

タクシーの中ではスマイルおじさまを中心に、YUKAさんと3人でおしゃべりタイム。日本から来たんだとか、私の名前はMichikoですとか言いながら、何かの話の流れでスマイルおじさまは急にオペラを歌いだした!!
YUKAさんと一緒におじさまに向かって、ブラーバァー(すっごいステキ!)と歌の合間に間の手を入れると、ますます歌声が大きくなり、締め切ったタクシーの中はまるで映画館のようだった。
感情がこもってきたのか、ハンドルをもっていた手を放して広げながら大きく歌うようになり、運転しているのに大丈夫かと思いながらも、3人とも楽しくなってくる。しまいには、助手席に乗っているMichikoの左手を取って握り出し、女性に対する告白のシーンの歌詞なのか、Michikoの目と合わせるようにしてニコニコして気持ちよく歌っている。わき見運転になるけれど、なんだかこの光景が楽しい(笑)。
大聖堂の前庭の近くに着いて降りる。Chikakoさんたちもすでに着いていて、早く合流しなきゃと思いながらも、せっかくの記念にと写真を撮った。やっぱり、とっても顔が近い。おじさまのスマイル、とっても輝いている。
こんなにも集まる!かわいい帽子のローマ法王の謁見

おじいちゃんと再び一緒になり、サンピエトロ大聖堂の前で写真撮影。本当に快晴。この広場を埋め尽くすくらいの人々が集まり、謁見が始まった。結婚を迎えるカップルが一番前に特別に並んでいる。タキシードとウェディング姿のカップルが10組弱。
その後ろで数千人だろうか、色々な国の人々が集まっていて、その最前列に私たちが座ることができた。その横にはずらっと車いすに乗った障害者の人が座っていて、私たちは特別に前にいることがわかった。

ローマ法王のことをそんなに知らないMichikoであったが、搭乗するまではなんだかドキドキした。カメラを構えて待つことにした。しばらくたって音楽が鳴るようになり、横脇から白い車が現れ出す。
ローマ法王の登場だ。透明なアーケードの天井がある車にローマ法王が立って手を振りながら、進んでいく。両脇には黒いスーツを着たガードマン。ただ、おかしいのは、横は吹きさらしでドアがなく、なんだか隙がありそうな感じだ。大丈夫だろうかと思いつつ、目についたのは法王がかぶっている白い帽子。薄くて、頭の形にピッタリな小さい帽子がなんだかかわいく見えた。
目の前を通り過ぎて、大聖堂の前のステージへと上がり椅子に座って、聖典を読み上げていった。中身はイタリア語でちんぷんかんぷん。でも、雲一つない青空の中で、サンピエトロ大聖堂の外観をじっくり見ながら、法王のお話をBGMにして楽しんだ。
終わってからは近くに座っていた障害者の男性と写真を撮り、挨拶を交わした。知的に障害もありそうだ。その他にも視覚障害の女の子もいた。なかなか詳しく話はできなかったが、海外の障害者と会うと励みになる。日本だけではない。海外の色々なところで、障害があっても暮らしている人々がいるんだと思えるようになる。

イタリアの夫妻に大歓迎!☆
ローマ法王の謁見が終わった後、私たちはホテルへと戻った。MichikoとEikoさんはイタリアの空気に慣れつつも、少し疲れも出てきていた。ホテルに戻るとなんかホッとする。部屋の中は、なぜか荷物でごちゃごちゃにしておくと落ち着く。机の上も、Michikoの化粧グッズを大きく広げた状態。Eikoさんは、少しの休憩時間にベッドに横になって、Michikoはボーっとしてリラックス。そういう時間も旅には欠かせない。

この日は、イタリアの夫妻と会う約束をしていた。車いす&ステッキコンビはいつも一緒であったが、Eikoさんは部屋で休みたいということで、MichikoとYUKAさん、Chikakoさんでトレビの泉付近に行って夫妻に会うことになった。
Eikoさん、しばらく休憩。Michiko、出動!!!
夫妻は、YUKAさんのイタリア語の先生だ。ご年配の夫婦ではあるが、お互いに手をつなぐほど仲が良い。過去に嫌な思いをされて、日本人に対するイメージが良くはないかもしれないと聞いていたため、ドキドキしながらトレビの泉の前で待ち合わせることになった。
トレビの泉は広大な観光地にあるわけではなく、アパートがたくさんある路地の中を歩いていったところに、突然大きくそびえたっている泉である。入場料が必要な施設だとうっかり勘違いしていたから、なおさら驚いた。
噴水を見ていると、後ろから夫妻が来てYUKAさんが挨拶をしていることに気が付いた。くるっと振り返ると、Michikoは、再びありったけのイタリア語を使って、「ボンジョルノ。ピアチェーレ、ディコノセラ!ミキャーモ、Michiko!(初めまして、私の名前はMichikoです!)」すると、顔に幸せそうな笑いジワを作り、Michikoに握手を求めてきた。YUKAさんに「まぁ。この子はかわいいわね。」と嬉しそうに話をしていたという。第一印象はこれでばっちりだ。やった~。
トレビの泉の前で初対面の挨拶を終え、私たちはお茶をすることになった。そこで、Eikoさんと一緒に二人で飛行機に乗ってきた話をした。夫妻はとても感心し喜んでいた。その他、色々な話をしたのだが、その会話の雰囲気を楽しみすぎて内容はほとんど覚えていない。覚えていることは、MichikoとEikoさんに、プレゼントを用意してくれたことだ。
イタリアでは歓迎のしるしに、ヴィオレッタチョコレートをプレゼントするという。ヴィオレッタとは、紫という意味だ。お花のところにマーブルチョコレートが入ったお菓子。何とも子どものように嬉しそうな顔をしている(笑)。実は、チョコレートであるということはしばらく経ってわかったことなので、お菓子で喜んでいるわけではない。
楽しくお話をしながら、Eikoさんのことが気になっていた。ぜひご夫妻にもEikoさんに会ってほしかったし、お二人もEikoさんに会いたがっていた。お茶をした後、ホテルに一緒に戻ることに。辺りは夕方になってしまった。ホテルに到着するとYUKAさんがEikoさんを呼びに行った。その間、ホテルのロビーでChikakoさんの通訳を交えて会話をしていた。Chikakoさんが一瞬席を外した時、Michikoが知っているイタリア語の「ポッソ・フォトグラファーレ・コンテ?」と話すと、お二人は手を握って最高のポーズをとってくださった。そうしているうちに、Eikoさんが車いすで降りてきた。ご夫妻が喜んでEikoさんと握手を交わし、歓迎のプレゼントを渡した。
ようやく3人で団らんのひととき
この日の夜は、夫妻としばらくホテルのロビーで話をしていた。とても楽しい時間を過ごすことができたが、朝から動いていたためちょっと一息つきたい。ご夫妻も帰っていき、Chikakoさんにもお礼を言って別れた。少し静まり返ったロビーで、車いす&ステッキコンビとYUKAさんは、ホッとして肩の力を抜いた。皆さんとお会いできて本当に嬉しい。その反面、人疲れもしてしまう。今日もお疲れさま!と同時に、お腹もぐ~っとなった。
3人になった私たちは、近所のイータリーというスーパーに行くことにした。そこにフードコートがあったため、そこで夕食を取ることに決定。チーズのかかった筒状のパスタを頼み、みんなでつついて食べた。これがとってもアルデンテ!硬かった!!お店によって調理方法は違うと思うけれど、こんな料理もあるんだねと硬いパスタを噛みしめて楽しんだ。

イタリアに来て改めて3人で話をするのが、これが最初だった。よくここまで来ることができたことに改めて祝杯を挙げた。
ちょうどそのころ、一般就労に就きそうな目途が立っていたため、そのお祝いも兼ねてやろうと前々から決めてくれていた。3年という年月をかけてようやく決まりそうになり、介助が必要なために就職できないという壁を乗り越えた。どんなことに努力していけばいいのか、雲に攻撃をするように、何も手ごたえがない現状と闘うことが辛かった。
その中で、「私はイタリアに行くべきだ。」と突然決めて、イタリアに住んでいるYUKAさんに連絡をすぐ取ったことは、今でも忘れられない。仕事中に介助を受けることが厳しい社会の中にいると、介助が必要な自分が情けなく、自暴自棄にもなった。それでも、この現状をマイナスに捉えたくないと思って、今回の旅を踏み切って行動に起こした。それを知っているEikoさんとYUKAさんは、なおさらイタリアでの再会を深いものと受け取っていた。
Eikoさんは、3人のお子さんの子育てを終えて自由になり、そこにMichikoという面白い人物に会って、一緒に旅をしたいと思ってくれた。Eikoさんと出会わせてくれたのは、YUKAさん。
YUKAさんも、この旅を実行できたことで、ますます、障害があっても海外に飛んでいく人々を応援していきたいと思っている。お互いに相乗効果の関係になり、とても幸せだと思った。
旅はもう少しで折り返し地点だ。
明日も早い。
そろそろ行こうと外を出て、だいぶ慣れてきたホテルまでの道のりをスムーズに歩いて帰っていった。歩道にあまり段差がないから、電動車いすですいすい行けちゃう。
それが後に、あまり経験しない事態が起こるとは夢にも思わずに、すっかりイタリアの夜にも慣れたMichikoであった。