旅が実現するまでの大切な人との出会い
2012年6月、Michikoはイタリアに「ひとり旅で行こう」と思い立った。自分を知っている人がいない中で、自分から声をかけて助けてほしいことを頼みながら、異国の地へ旅をしてみたい。さっそく、イタリアに住んでいる友人のYUKAさんに連絡を取った。そこに至るまでには、たくさんの出会いがあった。
YUKAさんは、2008年に大学のスクーリングで出会い、トイレ介助を手伝ってもらったりしながら仲良くなった。年上の先輩で若い時から海外で仕事をしながら暮らしたことのある国際的な女性で、2011年に夫婦ともにイタリアに在住することになった。
大学生の頃は、トイレ介助をヘルパーさん以外にも頼むようになり、色々な人と出会い始めた頃だった。スクーリングの懇親会の席で、「スキーをやらないかい」とナンパしたKojimaさんとも知り合った。他にも、看護師をやっている男性と奥さんと一緒に、スクーリングを兼ねて沖縄へ2泊3日の旅行もした。旅行ぐせはこの頃から始まった。
2010年3月、Kojimaさんと卒業式で本学がある名古屋へ行き、2泊3日の旅行をした。もちろん、トイレや入浴は女性の介助が必要であるため、同じく卒業式に出るために長崎からやってきた女性に連絡を取り、一緒に泊まることをあらかじめ約束し、現地で初めて会って介助をお願いした。
道外の旅行で、現地で出会った人に介助をお願いするのはこれが初めてであった。この方法は、これから明らかになるタイとイタリア旅行の方法と同じである。Kojimaさんに「活動範囲を広げていく方法」を教えていただいた。
そして、常に、活動的なMichikoを心から感動し、一緒に何かやろうと話していたひとりが、YUKAさんだった。定山渓温泉に行き、一緒にお風呂にも入った。チェアスキーも一緒に行った。2010年に卒業を迎えた頃、Michikoは社会福祉士の資格も取り、中学生から夢であったカウンセラー(この資格でいうと福祉の相談員)を目指す第一歩となった。それから「起業をする」ということを考え始め、地域の人々が気軽に集えるコミュニティカフェ兼、相談室を設立したいという夢を持つようになり、企画書を作って、YUKAさんと夢を語ったのだ。YUKAさんとその友人のゆかさん、あづさちゃんと「わくわくすることをしたいよね」「それぞれの夢をかなえながら、いつかみんなでコラボレーションしよう」とインドカレーの店でランチしながら盛り上がったこともとっても楽しかった!
タイの旅行サポートをしてくださった
病院の方との出会い
2011年10月、Michikoがイタリア旅行を全く企画していなかった頃、YUKAさんに誘われて、ある研究会のイベントに参加した。そこでは、 西洋医学と東洋医学を組み合わせて、患者の状態に合わせて様々な医療が受けられ、その人らしい人生を送ることができる医療ネットワークを作るために活動していた。
もともと、YUKAさんは、難病患者の支援や患者会の活動に関わり、薬や手術によって病気そのものを取り除く西洋医学の考え方だけでは、その人らしく生きることが難しいと考えてきた。人間が本来持っている自然治癒力を高めることも不可欠であり、たとえば、漢方や鍼治療、タイ古式マッサージ、アロマセラピーなど多種多様な方法にも視野を広げていく必要があると考えている。温泉に行くことも血行促進や、日常生活とは異なる場所に行くことによる精神的リラックス効果があると言われている。そういった広い視野で医療を考えていこうというものなのだ。
イベントでは、YUKAさんの紹介で、タイからはるばる来られた病院の通訳士Oさんと知り合いになった。ちょうどタイ人のスタッフのNさんも来ていたが、タイ語も英語も何も話せなくて、コミュニケーションが取れない悔しさを感じた日だった。ちょっと勇気を出せば話せるのにな~、大事なところでなかなか勇気が出せない性格なのが悔しい~ぃ!
そして、今回のタイ・イタリア旅行のパートナーのEikoさんと初めてお会いした日でもあった。Eikoさんは受付のテーブルにいて、Michikoが入口に入ると「あら~Michikoちゃん!」と笑顔で声をかけられた。他にも女性の方が2,3人いたが、みなさんが「あのMichikoちゃんだよ!」と歓迎してくれたのを今でもはっきり覚えている。
よくよく聞いてみると、「Michikoちゃんってね、車いす壊れる覚悟でバングラデシュに行ったんだよ!!!すごくない?!チェアスキーもやっていてね、とっても精力的なんだ~ぁ!!」と、YUKAさんがMichikoの人となりをたくさん話してくれていたようで、「初めて会った気がしないわ~」と感激していただいた!「Michikoちゃんも、ネットワーク研究会の当事者研究員として一緒にやろうね~」とYUKAさんの一声で、Michikoも仲間入り。Eikoさんも障害があるため、当事者研究員として入っていた。
障害者同士のふたり旅のイメージをつける
それから、次の年の7月。イタリアへ行く日を5ヶ月後に決めた。たまたまタイ経由の便が安くなっていて、いろいろな話し合いをして、イベントで出会った病院の通訳士Oさんのご協力で、その病院にケア付きで宿泊できるようになった。その病院でも、 病気や障害がある方が静養できる場所として使ってもらい、海外旅行やタイの観光のサポートをしたいと考えていた。
最初は「ひとり旅」をするつもりだったが、介助が必要だと、乗車拒否に遭うかもしれないということがわかった。ならば、「ふたりが先導者になってやってみよう!ふたりだけなら、今年中に実行できるよ!この旅で未来へつなげていこう!」とYUKAさんと話が盛り上がり、Eikoさんを誘ってみることにした。
すると、Eikoさんが即決。トントン拍子に準備を進めていこうという話になった。
そこから、Eikoさんと旅のイメージを膨らませながら、イタリアにいるYUKAさんと出発の前日までやりとりをし、13日間の長い旅に備えていった。Eikoさんとは、ふたりだけでどんなことで協力し合えるのか、ふたりの体力はどのくらいあるのか測るため、円山動物園へ遊びに行くことにした。
電動車いすだと、どうしても早く走れてしまうため、暴走Michikoを抑えつつ、Eikoさんとゆっくり歩いていった。ゆっくり歩くと、景色もゆっくり変わっていくし、明るい空をじっくり見上げて深呼吸もできる。ひとり旅とは違い、ふたり旅は違った楽しみを味わえる。

ふたりの協力の仕方はこんな感じだ。Eikoさんは、指先が使えるので、お弁当のふたを開けたり、袋を開けてストローなどを取り出したり、カバンの中から物を持ってもらったりできる。Michikoは、Eikoさんの杖の代わりにもなるし、カバンなどを車いすの後ろにかけることもできる。
空港での手続きでは、Michikoが簡単な外国語に対応し、渡されたチケットはEikoさんに持ってもらって、移動をするとスムーズだ。持てる荷物も限られているため、そんなときは空港職員に手伝ってもらう。お金も盗まれないように離さず持つ方法を考えたり、空港ではEikoさんも車いす移動の方が楽だということも知ることができた。


つづく
【2020年記】
「障害者なんだから、あぶない」と言われ続けていた。
「文章を書くことそのものが、自由な旅なのかもしれない」と今、この瞬間、感じたことだ。この旅の話は、2015年に書き溜めていた。実は、12万字以上の文章量がある。それらを、構成を変えて書き直している。
今は、新型コロナウィルスの影響で、外出できなくなっているが、旅行記を書いているうちに、海外へ行ったような気持ちになってきた。
高校を卒業して、一人暮らしをするまでは、「障害者なんだから、あぶない」と言われ続けてきた。もちろん、直接その言葉を言う人はいない。障害者が生活している病院や寮生活では、「何かあったら責任が取れないから」と言われ、ちょっとの外出も3日前の届け出が必要だった。カップラーメンを食べるだけでも、「火傷したらどうするんだ」と全職員の同意がなければ、カップラーメンを食べる企画さえもできなかった。(そもそも、企画書がないといけなかった。)
結局、自分の身の守り方を教えられないまま、社会に出なくてはならなかった。自宅の一歩外に出たら、危険な目に遭う可能性は高くなるのは当たり前だ。しかし、自分の人生が自宅や施設の中だけで決まっていいのだろうか。それならば、危険な状態にならないように、自分の身を守る経験を積んでいった方が、より豊かな人生を送ることができる。
今、このタイミングでは、外に出ること自体が危険と隣り合わせになっている。ウィルスには勝てない人間だからこそ、今は、だれもが用心して耐えていかないといけない。
今の日常を壊さないように、そして、より豊かな生活をあきらめないように考えていくことが、私たちには求められているような気がする。
障害のある人が人里離れて遠くの施設や、自宅の中での生活を強いられていたときは、障害者は街に出てこられず、存在すらできなかった。今は、医療が進み、福祉用具の技術が上がり、地域サービスも増えていった。いろいろな人の運動により、学校や職場、街の中で暮らせるようになっていった。
少し状況は違うけれど、その状況を改善してきた経験があるのだから、医療や科学、行政、そして個々人のアイディアにより、元の生活に戻せるようにできると思う。
そう願いながら、このエッセイを書き進めていきたいと思う。
追記
この記事は、2012年11月2日から12泊13日でタイとイタリアへ旅をした時のノンフィクションの物語です。以前に本を出す予定で書き溜めていたものですが、色々とあって出版には至っていませんでした。
それを知った友人が「それはもったいない」と言い続けてくださり、最近ようやくこちらに載せようと思い始めました。
連載ものになっていますので、ぜひゆっくりと読み進めてみてください。
今では、新型コロナウィルスの影響で、タイやイタリアに住んでいる友人や出会った人々が元気に過ごしていらっしゃるか、心配しています。
友人に気づいてもらえたら嬉しいなという思いで、連載で載せることにしました。
どうかお元気でいらっしゃることを願って。