ふと、このタイミングで、行ったことのない場所へ行ってみよう。そう思っていたら、「いつの間にか、たどり着いてしまった」という感覚を味わってみたい。
「かもめ食堂」を見て、感じました。
何度見ても、素朴で飽きない映画は、これしかないと思います。
人との出会いは偶然で、それぞれにとっては「いつの間にか、たどり着いてしまった」場所。フィンランドのヘルシンキで日本食の食堂を始めたサチエさんは、「どこかに行ってしまいたいと思って、目をつむって指で地図を指した場所がヘルシンキだった」というみどりさんと、「両親の介護を終えて、介護中にテレビで見たフィンランドのエアギター選手権に魅了されたのを思い出し、来てしまった」というまさこさんと出会う。
お店を始めてから長い間、サチエさんは洗ったコップを拭きながら一人でお客さんを待つばかりだったが、日本好きな青年トンミ・ヒルトネンが初めての地元のお客さんで来てから、ゆっくりと食堂の人の流れが動き始める。相変わらずヒルトネンは毎日のようにタダでコーヒーを飲みに来るが、みどりさんと出会い、色々な事情を抱えたフィンランド人が食堂に訪れるようになり、その流れとともに、コーヒーにシナモンロール、豚の生姜焼きや紅鮭の定食、そしておにぎりなどのメニューが日常的にテーブルに出るようになる。
私は、素朴な日常の風景の中に、すっと心に入る名セリフを聞いて、ドキッとします。何度も見ているはずなのに、いつも初めて聞いた時のようなグサッと刺さる言葉です。でも、嫌な意味ではなく、心に明かりを灯すような言葉です。
いいえ、やりたくないことを、やらないだけです。
まさこさんは、サチエさんが食堂をやっている姿を見て、「いいわね、やりたいことをやって」と言った時のサチエさんの言葉。
サチエさん
まさこさんが帰ってしまうとわかった後の、サチエさんとみどりさんの食堂での会話。みどりさんは、サチエさんに「もし私が帰ることになったら、寂しくないですか」と聞いて「寂しい」という返事がなかったことに寂しさを感じていた時の、サチエさんの言葉。
でも、ずっと同じではいられないものですよね。
人は皆、変わっていくものですから。
みどりさん
良い方向に変わっていくと良いですね。
サチエさん
大丈夫。
たぶん、きっと。
心を温めたい時、もう心が温まっている時に、何度も見たい映画です。
個人的に、トンカツを切るサクサクという音が大好きです。