つぶやき

人を信じるための訓練の最強ステージ

いきなりの話だが、私はなんだか別次元の世界にいるような気がする。

 

私は生まれつき体に障害があって、自分で立って歩くこともできないし、自分の身辺的なことは何もできないから、常に他人による介助が必要だ。

生まれつきだから、それ以外の世界を知らない。ただ、障害のない人たちの考え方のもとで作られたこの社会にいるということ、それはなんだか私にとっては不思議だ。人それぞれ性格や考え方が違うのは当たり前だけれど、なんだかそのレベルでは語れない。知らない間に刷り込まれている考え方があるような気がしてならない。

とっても難しい。今の私には言葉に言い表せられない。でも、まだまだ言葉で言い表せられないことがあるのかと思うと、私はなんだかワクワクする。「こういうことはこういうものだ」 と、限定するよりは、「こういう可能性もあるし、こういう背景もあるんじゃないか」 と思った方が、なんだか心が楽になる。

 

 

ヘルパー生活をしていると、いろいろなヘルパーさんが私のプライベートな空間に入ってくるが、私は日常生活のあらゆることをやってもらうために、ヘルパーさんに来てもらう時は、そのヘルパーさんのことをある程度信頼しなければ始まらない。

最初は緊張するが、徐々にヘルパーさんがいても、自分の生活が流れるように、自然に過ごせるようになれば、私もヘルパーさんもお互いに信頼している状態だと言える。

 

でも、そうじゃないこともたくさんあって、 ヘルパーさん側が「常に動いて仕事をしなければならない」 と思っていたら、勝手に部屋の掃除をし始めることもあるし、 利用する側が「 ヘルパーさんがいるときは、どんどんどんどん仕事を頼まなくてはいけない」 と思っていたり、そういうのが当たり前だと言う認識でいたりしたら、 利用する側は休みなく、ヘルパーさんに何かを頼むであろう。

例に挙げたヘルパーと利用者なら、お互いの考え方が合っているので、違和感はないかもしれないが、ヘルパーさんだけが「そんなに仕事が多いと大変」と思っていたり、利用者だけが「そんなに立て続けに頼んでいたら疲れる」と思っていたりしたら、お互いに合わなくなってくる。

 

時々たくさんやることがあるが、そうじゃない時もあると言うのであれば、問題ないのだが、 もし、1つのやり方や考え方に固執している場合は、ヘルパーさんもしくは利用者の方に、「こうしなければならない」「こうするものだ」 という考えがあるからかもしれない。

考え方が固まってしまうことに加えて、それぞれのヘルパーさんに対して「この人はこういう人だから、こういう風に話そう」「この人が来たときには、これを注意してみておかなければ、やってるかどうかわからない」 と、疑ってしまうことがある。

 

私は利用者側の立場で言うと、人を疑いたくなる気持ちはとてもわかる。

実際に、ヘルパーさんの中でも本当に身の危険を感じるほど、危ない人も中にはいるから、危険や違和感を察知すると言うことは、悲しいことだけれど、必要なことなのである。ただ、私の感覚で言うと、本当に危険な人は100人に2人ぐらい、マナーとしてちょっとなぁと思う人は、10人に1人くらいであるから、誰でも彼でも疑うべきでは絶対にないと思っている。

もちろん、人間だから、ついやってしまうこともある。

だから、どういうふうに一人ひとりのヘルパーさんを理解するか、よくよく考えなければならないと常に思っている。というのは、1つの側面でしか見ていないのだから、わからなくて当然なのだ。だからこそ、「この人はこういう人だ!」と決めつけられないし、そこにイライラすると、状況が複雑になってくる。

 

どうしてそういうことをわざわざ言うかというと、障害のない人のなにげない会話を聞いていると、簡単に誰かのことを悪く言うことがあって(それは利用者に対しての悪いことじゃなくて、日常的な会話の中での話)、しかもそんなに考えないで話していることがちょっと不思議に思うからだ。

 

でも待ってよ。もしかしたら、自分の生活やプライベートの部分に人が入り込まない状況で生きていたとしたら、 あまり考えずに済むし、安心して話せるんだろうなと思った。

 

だいぶ以前に、どんな些細な言葉でも、気分を害してしまったり、 顔の表情が無になったり、目の様子が普通ではなかったりする人が以前にいて、その人がヘルパーとして来る時はかなり言葉を選んで付き合っていた。 さっき私のイメージを言ったように、そういう人は100人に数名しかいないのであるが、そこまでいかなくても、似たようなことに陥る人はその延長線上にたくさんいる。

 

そういう経験からも、人は絶対に完璧ではないということが身に染みてわかる。 そういう人のことをダメだとか言いたいのではなく、「ヘルパー生活というものは、どんな人も入り込んでくる可能性がある」ということを言いたい。

 

だから、基本的にはその状態が前提で、その中で、自分の部屋をヘルパーさんに見せて、自分のプライベートな時間にヘルパーさんが入り、そして自分の体のプライベートなところまで見せざるを得ないのだ。

 

障害がなくて自分でできる人は、何人もの人が自分のプライベート空間に来る、という生活はしていない。自分自身の家や空間、体については、基本的に人に関与されない、人が入り込まない安全なところにいるのだ。

それにもかかわらず、なぜか、他人のことを信用できなかったり、疑ってしまったりする。そこにはまた別の理由があるのだと思うが、もし、その人もヘルパーさんが必要になる生活になった場合、待ったなしだ。

 

それは、他人を信頼しなければ、介助が必要な私たちは、トイレにも行けないし、毎日安心して寝ることもできないし、生きていくことができないからだ。だから、どうにかその人を信頼する方法、理解する方法、自分の大切にしたいことを守りつつ、相手も大切にする方法について、良いアイディアを出していかなければいけない。

この人はこういう人で嫌だよね。そういう愚痴も言わせてはほしいが、そういう暇がない状況になりやすい。

 

だから、小さいことも含めていろいろ違和感があったとしても、その中でも解決した方が良いことを優先して考え始める。事業所さんに話をしてみることもあるし、本当はそのヘルパーさんとの間で解決していきたいから、最初にヘルパーさんに話をすることも多い。でも、 そこがうまくいっているのなら、大抵あまり問題にはなっていない。 だから、最後まで残っているモヤモヤは1人では解決できないことの方が多いなと、私は思っている。

 

できれば、人を疑わずに生きていきたい。

 

もし、仕事で、会社で出会う人に対して疑ってしまうことや違和感があれば、24時間そこにいるわけではないので、仕事が終わった後にリフレッシュしたり、誰かに相談したり、会社以外の人に相談したり、何とかやっていく方法がいくつかある。 何より、仕事をしていない時は離れられるのだから、煮詰まらずにいられる。

ところが、日常生活介助が必要であればあるほど、 何かあったときの逃げ道、愚痴を漏らすこと、誰か全然違う人に相談すること、そういうことがしにくくなってくる。

 

「この上司、ほんとむかつくよね」 と言えるものが、ヘルパーさんに対してなら、あまり言えない。 普通の仕事で愚痴を言っても、また他の人も共感して愚痴を言いあったりできるが、ヘルパーさんに対しての愚痴は、その場では本当に共感できる人はなかなかいないのだ。共感できる人が自然にそこにいて、 愚痴や、冗談を言っても、みんなそう思ってくれるだろうという安心感があるのは、本当に安心できる環境なのだと思う。

 

 

お世話になっているんだから、わがまま言ったらダメ。

できないことが多いんだから仕方ないでしょ。

ヘルパーさんに来てもらって生活できてるんだから幸せじゃない?

 

そんな言葉が、そういう生活をしたこともない人たちから言われたりする。

万が一、そう言いたくなってしまうのなら、あなたの辛いことを言えばいいだけで、人の人生のことを言う必要はない。どうしたら、あなたが元気にヘルパーさんとして働けるのか、 ちょっとした工夫やお互いの助け合いでできるかとアイディアを出したらいいし、相談したらいい。

 

とにかく、ヘルパー生活は、人を信じるにはどうしたらいいのか、
いろいろな対策を迫られる訓練の場でもある。

これは正直、 人生において、
1番のプロフェッショナルな技術が必要なところかもしれない。

 

どうか、これは本当に難しいところなので、 誰でもできることではないこと、そしてできるように見える人でも、正直、きついということは、なんとなく頭の片隅のホントのホントの端っこでもいいので入れておいてもらえると助かる。

 

ヘルパー生活をしている人は、なにもできない人なのではなく、
「人を信頼する訓練の場、最強ステージにいる人」なのである。

 

そこから学ぶことは大きい。

だから、そこに関わるヘルパーさんも、利用者のことを評価するのではなく、
そこに自分も身を置いたら、どんな苦労があるのか、想像してほしい。
それでも、人生を楽しみたい。どんな人もそう思っている。

 

そこに、人生の大きなヒントが隠されているかもしれない。

 

 

注釈)
こちらの記事は、私の生活の経験だけでなく、介助を利用して生活している人の話も聞いていく中で、参考にしながら、共通して起こっているのではないかと想定して書いています。また、「ヘルパーさん」という表記をしましたが、特定のヘルパーのことを指しているのではなく、障害者の生活に入って支援してくださっている人、全体を指しています。

 

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